描いたものがそのまま版になる。不思議な版画技法「ウォーターレスリトグラフ」

展覧会「スペインのイメージ:版画を通じて写し伝わるすがた」の出品作品には、銅版画、木版画、リトグラフなど、様々な版画技法が用いられています。

版画は、大きく「凸版」「凹版」「平版」「孔版」の4つの版種に分類することができます。凸版は版の出っ張ったところにインクをつけて刷り、凹版は版の凹みにインクを詰めて圧力をかけて図柄を刷り取ります。孔版の「孔」は「あな」のこと。紙などの上に孔の開いた版を置き、上からインクを押し出して刷ります。

では、「平版」ってどんなものでしょう?

名前の通り、平版の版は凸凹も孔もなく平らです。でも、ちゃんと図柄を刷り取ることができるんです。不思議ですよね。

百聞は一見に如かず、ということで平版のワークショップを5月13日(土)と14日(日)の2日間連続で実施しました。

講師は、東京都町田市にある版画工房「kawalabo!(Kawara Printmaking Laboratory)」スタッフの今泉奏さん。今泉さんは、南島原市アートビレッジ・シラキノのアーティスト・イン・レジデンスの2021年度招聘作家でもあります。

今回取り組んだのは、比較的挑戦しやすい「ウォーターレスリトグラフ」という技法です。1日目は、レクチャー・描画・製版でした。

平版の仕組みから技法の起源まで、まずはレクチャーで頭に入れてから実践。


アルミ板に、粉末状のトナーや水彩鉛筆などで描画していきます。トナーをどんな溶剤で溶くか、鉛筆をどんな濃さで描くかによって、表現の幅がどんどん広がります。描画したものがそのまま版になって刷り取られるので、皆さん真剣そのものです。


よく乾燥させてからトナーを使った部分は熱を加えてアルミ板に定着させ、シリコンを薄く塗り広げます。

乾燥やトナーの定着が不十分だと、シリコンを塗った時に描画したものが消え去ってしまいます。部分的に「あ、消えちゃった!」という方もいましたが、そうした技法の繊細さ、難しさを含めて楽しんでいました。

シリコンを一晩しっかり乾燥させるため、1日目はこれで終了。


2日目は、製版の続きと刷りです。

しっかりシリコンが乾いていることを確認したら、アセトン&ティッシュ、水を使って描画材を落としていきます。ティッシュをとんとんとんとん、皆さんやさしく丁寧に作業を進めていました。


版が完成したら、いよいよ刷り工程に移ります。

油性のインクを巻きつけたローラーを版の上で何度も往復させると、描画した部分にインクがつき、シリコン部分だけインクが乗っていない状態になります。

紙を乗せてプレス機で圧力をかけると、描画したままの図柄が刷り取れます。

「きちんと製版できているかな?」「インクは十分についたかな?」と、皆さんおそるおそるプレス機へ。プレス機を通して、試し刷りの紙をめくると「おおー!」と歓声が上がりました。

しかし、ここで満足する皆さんではありません。試し刷りをよく観察し、インクのつき具合を調整して本番用の版画紙に刷っていきます。


複数枚刷ったものから一番お気に入りの作品を持ち寄って、鑑賞会をしました。

「自宅に飾るものを」「孫に贈るものを」と各々制作に込めた思いや、「刷りまでやってみて、やっとウォーターレスリトグラフの仕組みを理解できた」「材料を揃えて自宅でもチャレンジしてみたい」と、技法体験の感想などで盛り上がりました。


版画の構造が理解できると、作品のみえ方も変わってきます。

ぜひ、今一度展示室の版画作品を見返してみていただきたいです。

展覧会「スペインのイメージ:版画を通じて写し伝わるすがた」は今週末の11日(日)まで!

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