韓国の美術館との交流事業を実施しました。

12月9日(土)、韓国との交流事業の一環として、韓国の慶南道立美術館のスタッフを講師に迎え、高校生を対象としたワークショップをアトリエにて実施しました。これは、同美術館が元々地域の高校を対象に取り組んでいたプログラムを、当館エデュケーターと協議しながら再構成したもので、長崎バージョンとして実施されました。
今回取り上げた韓国の作家ペク・スンゴン(1947~2021)は、慶南道美術館の所蔵作家です。めまぐるしく動く情報化社会の中で、人間が情報に支配されることへの危惧を抱き、人間のあり方について考えながら作品を制作した作家です。社会そのものを反映するメディアである印刷物(新聞や雑誌)をちぎるという行為により、現代社会への批判を表現しました。そのような作家の制作を、高校生が追体験することで作品に込められたメッセージに触れることをねらいとしました。

今回のテーマは「あなたと私の関係性」。作家とその作品についてまとめた映像を見た後、くじ引きでペアを作り、2つの椅子を自分たちの関係(距離感、親密度など)に見立て自由に配置しました。そしてペアごとに制作する「スペース」を床にテープを貼って決め、それぞれ与えられたキーワードに関連した雑誌から記事や画像といった情報の断片を参加者自身が選び切り取り、床に散りばめたり椅子や自分自身に貼り付けたりすることで、自分たちが持っているイメージを視覚化しました。

次にそれぞれの「スペース」に名前をつけました。「十人十色」「おさげ少女のBIGWAVEな領域」など気になる名前ばかり。雑誌の画像や椅子の配置などから着想を得て付けた名前を紹介し合い、お互いに興味深く話を聴きました。

続いて、自分たち以外で気になる「スペース」を3つ選び、糸をインターネットや人どうしのつながりに見立て、お互いの空間をつなぎました。
引率の先生方にもご参加いただき、糸のつながりは更に複雑になっていきます。

仕上げに、シュレッダーでバラバラにした雑誌の破片を、私たちが認識していない無数のインターネット上の情報や、人間同士の無秩序な繋がりを表すものとして会場に散りばめました。

最後に、これまでの制作プロセスで考えたことを振り返りながら、作家が作品に込めた想いについて考えました。
ワークショップは、講師であるジョン・ジンギョン氏から「皆さんがこれからの人生で、自分にとって大事な情報を、自らの手で選択して生きていってほしい」という言葉で締めくくられました。
参加した高校生からは、「講師の話が分かりやすく共感できた。」「はじめて出会った人々と交流ができてよかった。」「いろいろな道具や材料を使い自己表現ができて楽しかった。」「それぞれのプロセスで考え、発想していく過程がよかった。」「韓国の美術家はあまり知らず、ネットで見るような韓国のイメージしか持っていなかったので、現地の人と話して現地の美術家について知る事ができてとてもよかった。」「作品は、それそのものも大事だけれど、作品に込めた想いもとても大事だということを改めて知れた。」などの感想がありました。
慶南道立美術館スタッフの皆さんが、所蔵作家の作品に込めた想いを伝えるという目的で、講師を中心に一丸となり、長崎の高校生へ熱い思いを持ち伝えている姿が印象的でした。そしてその想いに呼応するかように、アトリエという空間で様々な材料を使い、お互いの表現が交差し積み重なっていく様子は、「アートは国を超えて人と人とをつなぐ」ことそのものを表すかのようでした。